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東京地方裁判所 昭和51年(特わ)294号 判決 1977年1月31日

本籍

東京都千代田区岩本町一丁目三番地

住居

同都台東区浅草五丁目三二番四号

会社役員

阿久津美喜雄

昭和一二年一二月一日生

右の者に対する所得税法違反被告事件につき当裁判所は検察官清水勇男出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人を判示第一の罪につき懲役六月および罰金五〇〇万円に、判示第二の罪につき懲役六月および罰金六〇〇万円に処する。

右各罰金を完納することができないときは金一〇万円を一日に換算した期間、被告人を労役場に留置する。

この裁判の確定した日から二年間右各懲役刑の執行を猶予する。

被告人を右各猶予の期間中いずれも保護観察に付する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、昭和四四年七月ころより東京都台東区千束四丁目二五番一三号において特殊公衆浴場「世界」を、同四六年八月ころより同都台東区千束四丁目四三番一〇号において特殊公衆浴場「助六」をそれぞれ経営し、同四八年三月ころ助六の建物等を売却するとともに同年六月ころより世界の建物等を賃貸していたものであるが、自己の所得税を免れようと企て、売上の一部を除外して簿外預金を設定し、架空の譲渡経費を計上する等の方法により所得を秘匿したうえ

第一  昭和四七年分の実際総所得金額が六九六二万〇九四二円あつたのにもかかわらず、昭和四八年三月一三日同都台東区蔵前二丁目八番一二号所在の浅草税務署において、同税務署長に対し、同年分の総所得金額が三一〇五万八七三〇円でこれに対する所得税額が一五一七万七四〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もつて不正の行為により同年分の正規の所得税額四〇〇一万〇三〇〇円と右申告税額との差額二四八三万二九〇〇円を免れ(修正貸借対照表および税額計算書は別紙(一)(三)のとおり)

第二  昭和四八年の実際総所得金額が二五九七万五一九五円、また分離課税による短期譲渡所得金額が三〇二二万〇三一〇円あつたのにもかかわらず、昭和四九年三月一五日前記浅草税務署において、同税務署長に対し、総所得金額が一五五六万九四九七円でこれに対する所得税額が五二〇万八一〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もつて不正の行為により同年分の正規の所得税額三二七一万〇八〇〇円と右申告税額との差額二七五〇万二七〇〇円を免れ(修正貸借対照表および税額計算書は別紙(二)(四)のとおり)

たものである。

(証拠の標目)

判示全般の事実につき

一、被告人の検察官に対する昭和五一年二月六日付、同月一三日付各供述調書謄本

一、被告人の収税官吏に対する昭和五〇年一〇月二日付、一一月二六日付、同月二九日付、同月二八日付、一二月四日付各質問てん末書謄本

一、小林宣義の検察官に対する昭和五一年二月三日付供述調書謄本

一、石垣博の検察官に対する同年二月四日付供述調書謄本

一、岩倉泰三の検察官に対する同年二月七日付、同月一二日付、同月二〇日付各供述調書謄本

一、押収してある所得税確定申告書二袋(当庁昭和五一年押第一、四三〇号の一、二)

各勘定科目につき

一、大蔵事務官作成の現金残高調査書および被告人作成の昭和五〇年一一月二〇日付申述書

(別紙(一)(二)の各番号<1>現金および別紙(二)事業所得につき)

一、大蔵事務官作成の預金残高調査書および被告人作成の同年一〇月二八日付上申書

(別紙(一)の番号<3>普通預金、同<4>別段預金、同<5>定期積金、同<6>定期預金、別紙(二)の番号<2>当座預金、同<3>普通預金、同<5>定期積金、同<6>定期預金および事業所得につき)

一、大蔵事務官作成の受取手形調査書(別紙(一)(二)の各

(別紙(一)(二)の各番号<7>受取形および別紙(二)の事業所得につき)

一、大蔵事務官作成の貸付金調査書

(別紙(一)(二)の各番号<9>貸付金および別紙(二)事業所得につき)

一、大蔵事務官作成の「建物(附属設備を含む)及び構築物勘定」調査書

(別紙(一)(二)の各番号<10>建物及び構築物および別紙(二)事業所得につき)

一、大蔵事務官作成の減価償却資産の償却額調査書および器具備品勘定調査書

(別紙(一)(二)の各番号<11>器具備品および別紙(二)事業所得につき)

一、大蔵事務官作成の車両運搬具調査書

(別紙(一)(二)の各番号<12>車両運搬具および別紙(二)事業所得につき)

一、大蔵事務官作成の借入金残高調査書

(別紙(一)(二)の各番号<14>借入金および別紙(二)事業所得につき)

一、大蔵事務官作成の未払金ならびに支払手形調査書

(別紙(一)(二)の各番号<15>支払手形および別紙(二)事業所得につき)

一、大蔵事務官作成の未払費用調査書および未払費用(租税公課)調査書

(別紙(一)(二)の各番号<16>未払費用および別紙(二)事業所得につき)

一、大蔵事務官作成の事業主勘定調査書

(別紙(一)の番号<17>事業主勘定、番号<19>給与所得控除、別紙(二)の番号<18>事業主勘定、<23>給与所得控除および事業所得、別紙(三)(四)の各合算対象世帯員の資産所得につき)

一、被告人の収税官吏に対する昭和五〇年一一月二九日付質問てん末書謄本

(別紙(一)の給与所得につき)

一、被告人の収税官吏に対する昭和五〇年一一月二八日付質問てん末書謄本

(別紙(二)の番号<8>出資金および事業所得につき)

一、大蔵事務官作成の借地権及び土地勘定調査書

(別紙(二)の番号<13>借地権および土地につき)

一、大蔵事務官作成の未納事業税(認定損)調査書

(別紙(二)の番号<17>未納事業税および事業所得につき)

一、被告人の収税官吏に対する昭和五〇年一二月四日付質問てん末書謄本

(別紙(二)の番号<19>喜千勘定、同<20>サニー勘定および事業所得につき)

一、大蔵事務官作成の四八年分譲渡所得調査書

(別紙(二)の番号<24>分離短期譲渡所得、同総合短期譲渡所得および事業所得につき)

一、被告人の収税官吏に対する昭和五〇年一〇月二日付質問てん末書および大蔵事務官作成の不動所得調査書

(別紙(二)の不動産所得につき)

一、大蔵事務官作成の預金利息調査書

(別紙(二)の雑所得につき)

(確定裁判)

被告人は昭和四八年八月一四日東京地方裁判所で売春防止法違反により懲役一年(四年間執行猶予)、罰金三〇万円に処せられ、右裁判は同年同月二九日確定したものであつて、右事実は検察事務官作成の前科調書によつてこれを認める。

(法令の適用)

一、該当罰条と刑種の選択

判示第一、第二の事実・・・・・所得税法二三八条 (懲役刑、罰金刑併科)

一、併合罪

判示第一の罪と前記確定裁判のあつた罪・・・刑法四五条後段、五〇条

一、労役場留置

判示第一、第二の罪の各罰金刑につき・・・刑法一八条

一、保護観察付執行猶与

判示第一の罪の懲役刑につき・・・刑法二五条一項、二五条の二、一項前段

判示第二の罪の懲役刑につき・・・刑法二五条二項、一項、二五条の二、一項後段

(量刑について)

被告人はいわゆるトルコ風呂営業により多額の収入を得ていたものであるが、右営業が売春防止法による取締の結果営業停止の措置を受け易く、経営に不安定さがあることおよび兄に対する競争心などを動機として脱税によつて簿外資金を蓄積したいと考え、売上を一部除外して簿外預金とし、あるいは建物譲渡にあたり架空の補修改造費を計上するなどの方法により過少な申告を行ない判示のとおりの脱税を行なつたものである。

その額は両年度合計で五二三三万五六〇〇円にのぼり、トルコ風呂営業の風俗上極めて危険な業態と合わせてその情は悪質であると言わなければならない。

しかも判示第二の罪は前記の如く売春防止法違反で処罰された後の犯行でもあり、前裁判後の反省の程度が疑われるのであつて、被告人に対し実刑をもつて臨むことも十分考慮し得る事案である。

しかしながら被告人の本件摘発後は十分改悛しているものと認められ、ほ脱税額につき修正申告をしたうえ、被告人としては努力の末、高利の借入金およびトルコ風呂売却代金によつて本税加算税等合計八六〇〇万円余(昭和五〇年度分を含む)を完納しており、小規模な個人事業者としての被告人の右努力は相当評価し得るものがあり、かつ今後は残つたトルコ風呂も売却したうえ、危険な業態からも離れる予定であることなど諸般の情状を考慮して主文のとおり量刑した。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 安原浩)

別紙(一)

修正貸借対照表

阿久津美喜雄

昭和47年12月31日

別紙(二)

修正貸借対照表

阿久津美喜雄

昭和48年12月31日

別紙(四)

税額計算書

昭和47年分

注1) 72,511,000×70%-8,284,000=42,473,700

注2) 3,180,390×6.25%=198,774

別紙(四)

税額計算書

昭和48年分

注1) 34,867,000×60%-3,284,000=17,636,200

注2) 9,192,855×5%=459,642

注3) 64,687,000×70%-8,284,000=36,996,900

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